このやり方は欧米では以前から比較的一般的な手法であったのですが、ビジネススクールに留学した日本のビジネスエリートたちなどが日本に持ち帰り、徐々に不動産取引でも使われるようになりました。
今まではともすれば井勘定での取引が主体であった不動産業界に大きな影響を与え、売却物件に対する精緻なレポート等の提出も含め、2000年代になると大手の会社では、実際の購入の検討に必ず使われるようになりました。
こうして、個人の不動産投資にあたっても、この手法を使えば、損することなく物件が買える魔法の杖であるかのように喧伝されることになったのです。
収益還元法による価格の算出さて、この「収益還元法」の考え方ですが、少し具体的に説明しましょう。
以下のような賃貸マンションの売却案件があったとします。
この事例を場所や環境、あなたが気に入るか否かは、一切考慮せずに数字だけで考えてみましょう。
賃貸マンションの事例ワンルームマンション堕戸(築15年)現状の賃料@10万円(戸当たり)年間賃料収入1800万円(満室時想定)諸経費450万円(収入の25%)ネット収入1350万円このマンションをいくらで買えば「勝ち組」の投資になるのでしょうか。
「収益還元法」の考え方に基づけば、おおむね次のような理屈になります。
このマンションに対する投資額に対して、あなたが欲する利回りはどのくらいかあなたの手元に最終的に残るお金が何%なら、あなたは満足できるのでしょうか。
5%くらい欲しいと思えば、5%で割り戻します。
1350万円÷5%=2億7000万円つまり、2億7000万円が投資額として必要になります。
あなたは投資額を全額自己資金で賄うかあなたが欲した利回り5%が全額自己資金での購入であるならば、あとは2億7000万円で売主がOKしてくれるかどうかです。
ただし、「そんなお金あるわけないじゃない」とか、「借入金の金利が所得から控除できるから、借入しなきゃ」と思う人は、借入金を調達する必要がありますので、金利などの経費を考えておく必要があります。
投資額のうち約4割弱の1億円を借り入れたとしましょう。
変動金利を3%として年間の金利費用は、1億円×3%=300万円金利分の支払いを行なった後に、あなたが受け取る収入は1000万円強に減ることになりますね。
ここから、借入金の元本の返済等に充当していくことになるのと、確定申告などで金利などの諸経費は一部所得から控除ができるので、税金の還付が受けられることになります。
また、あなたにこのマンションの購入を勧める営業マンは、こうも言うはずです。
「あなたが実際に用意したお金は、借入を引いた分の1億7000万円です。
この投資した金額に対して受け取る収入は、元本返済前では、6・17%になりますよ。
おトクじゃないですか」(1350万円-300万円)÷1億7000万円=6・17%これが借入金をすることによって得られる「レバレッジ(てこ)の効果」と呼ばれるものです。
最初に2億7000万円をすべて自分のお金で用意するよりも借入金をすることで、表面的な利回りは高くなるというものです。
投資するにあたってのリスクプレミアムさて本当にこれだけの計算で、2億7000万円もの大金をこのマンションに投じてしまってよいのでしょうか。
投資に対するリスクを検証する必要があります。
いつでも満室で運営できるか賃貸マンションは通常、借り手とは2年契約です。
今が満室でも今後、借り手の入れ替わりが頻繁に起こるようになると、稼働を常時100%に保つことが難しくなります。
そこで平時の稼働率を90%程度にします。
すると年間の賃料収入は、1350万円×90%=1215万円になります。
金利はいつでも3%か業者は売ることしか考えていませんので、今の金利が未来永劫続くかのように説明します。
しかし、金融情勢いかんによっては、中長期で金利はどんどん変動します。
ちなみに平成初期、長期プライムレートと呼ばれる、大企業向けに金融機関が提供する最優遇金利が6・9%の時代もありました。
それが今では1%台ですから、「いつまでも続くと思うなよ、金利」です。
ということで、金利を4・5%くらいの負担にしておきましょう。
賃料は今後どうなるのか経済が右肩上がりの時代、人々は、家賃は経済の成長に伴って未来永劫上昇するものだと信じていました。
現在ではどうでしょうか。
残念ながら多くの賃貸マンションは、築年数が経過するほど賃料は下がる傾向にあります。
したがって、現在の1戸当たり10万円が今後も保たれる保証はどこにもありません。
むしろ、今後は建物等の経年劣化に伴って、賃料は下がっていくことを覚悟したほうが賢明でしょう。
ということで賃料は平均で10%ほど下げて考えておきましょう。
諸経費はずっと変わらないのか現在は満室時の賃料収入の25%はどの経費ですが、これからはどうなるのでしょうか。
また経費にはならないものもありますが、建物が築15年を迎えますと建物の修繕や設備の更新などで、多くのお金がかかることも考えられます。
経費を27%くらいに増やしておきましょう。
これらを勘案すると、年間賃料収入@9万円/戸×堕戸×90%×12カ月=1458万円年間経費ネット収入1800万円×27%=486万円(満室時想定収入の27%)1458万円1486万円=972万円満室時想定収入から単純に計算したネット収入に比べてリスクを勘案したところ、約378万円ほど「固め」に見ておく必要があることがわかりました。
さて、このネット収入をあなたの希望の利回り5%で換算しなおしてみましょう。
この物件の希望価格は、972万円÷5%=1億9440万円となってしまいます。
なんと、7000万円以上価格が低く出ました。
つまり、あなたは2億7000万円などでは買ってはいけない。
ぜひ1億9440万円で交渉すべきなのです。
ちなみに売主側が2億7000万円でピタ一文まけない、ということになると、972万円÷2億7000万円=3・6%わずか3・6%の運用利回りということになってしまいます。
さらにもう一つの経費を思い出してください。
金利です。
金利は経費にはなりますが、実際にかかってくるお金です。
先ほどの計算では1億円に対して年間金利は450万円でした。
これをネット収入から差し引いた、金利控除後のネット収入は、972万円-450万円=522万円となってしまいます。
同様に金利控除後のネット利回りでは相手の言い値の2億7000万円で買ってしまいますと、実際に支払った自己資金分1億7000万円分に対しても、522万円÷1億7000万円=3・07%になってしまいます。
先ほどの6・18%からずいぶん悪化してしまいました。
数字というマジックここまでが、単純モデルによる収益還元法での考え方です。
実際にはこの数字を5年、あるいは10年の時間軸に伸ばして計算し、各年の数字を割引率で現在価値に引きなおす必要がありますが、ここでは省略します。
この収益還元法による価格決定理論は一見、正しそうに見えますが、本当にこれだけで2億円もの巨額の投資を決断してしまってよいのでしょうか。
まず、数字のマジックを見破ることから始めましょう。
先ほどの事例は一つの想定にすぎません。
リスクはもっと大きな波となって襲いかかってくるかもしれませんし、実はこんな心配は杷憂にすぎず、「結果オーライ」なのかもしれません。
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